2011年4月20日水曜日

光の射す景色

ここは、まるで本当に生きているかのような世界。
見るもの、動くもの全てが、現実味を帯びている。
もう、あなたはこの世界に降り立ったのだろうか。

目の前の重そうな扉に手をかけ、
ゆっくりと押してみる。

扉は、それほど重くなかった。
木がきしむ音がしながら開き始める。

「ここは・・・・」

暗闇の世界とは別の世界のようだった。

両脇には、アンティークなソファがいつくか並び、
一番奥には、祭壇がある。
優しいバラの香りとともに、温かい光に包まれ、
祝福の声が聞こえてきそうだ。

「ああ、ここは教会なのか。」

そう気づくのにそれほど時間はかからなかった。

辺りを見渡しながら、祭壇へ近づこうしたときだった。

「ようこそ、長い旅でお疲れになったでしょう」

どこからともなく、優しい口調の声が聞こえる。

「ほら、ゆっくりとまばたきをしてごらんなさい。
あなたの周りの景色が変わっていきますよ」

ゆっくり目を閉じ、またゆっくりとあけてみた。

「あ!」

そこには、幸せそうに神父と向かい合う新郎新婦の姿。
そして、さほど多くはないかけがえのない友人たちが
ソファーに腰かけ、二人の顔を見ながら微笑んでいる。

まだ若い花嫁は、ひざまずく新郎から手のひらに口づけをもらっていた。

「そう、ここで幸せを誓い合った人たちの風景が
ゆっくりと見えてくるのですよ」

バラの香りは変わっていない。
優しく包み込むような香りの中、挙式は終わりを迎えていた。

人々が去った後の教会は、静寂に包まれている。
よく見ると、教会のサイドには、カウンターらしきものが見える。

女性が1人、カウンターの中でたたずんでいた。

「いらっしゃいませ」

細く透き通るような声。
あの声だ。ここへ導いてきた、あの声だった。

女性は、微笑みながら、カウンター席をさした。

「よかったら、こちらへどうぞ」

それほど広くないバーカウンターに、
数個の木製のチェアがあるだけだ。

何か話さないといけない、そんな気持ちはどこにもなかった。
話をしなくても、ここにいられる、そんな雰囲気なのだ。

「ここは、まだ一部分に過ぎないのですよ。
外に出て、ゆっくりと歩いてみてください。
きっと、月の光が新たな道を示してくれると思います」

そういうと、女性は、奥へと歩いていった。

2011年4月14日木曜日

大聖堂の映る風景

ここは、まるで本当に生きているかのような世界。
見るもの、動くもの全てが、現実味を帯びている。
もう、あなたはこの世界に降り立ったのだろうか。


馬車から降りると、そこには、大聖堂がそびえ立つ。
大聖堂へ続く階段は、左右から回り込み、
入り口へと導いているようだ。

古いレンガ造りの階段は、
古いながらも丁寧に磨かれて、
時間とともに風化された雰囲気を持っている。

微かに漂うバラの香り。
そして、静かに流れ落ちる水の音。
ここに存在する全てのものは、
静かに呼吸をし、息づいている。

花々や木々、風や土、水、すべてのものが、
自然にここに生まれ、
それぞれが邪魔することなく共存しているかのようだ。

「早く上に来てご覧なさい」

そんな声が大聖堂の奥から聴こえる気がする。

階段を上ろうとしたとき、
ふと振り返ると、もう馬車は姿を消していた。

「いつの間にいなくなったのだろう。」

中庭には、石像が大聖堂を見守るようにたたずみ、
両手にほのかな光の玉を作っているようにみえた。
時々、その光の玉は、強く輝くように見える。
この暗闇の中、この大聖堂へ招くように、
光が中庭にこぼれ落ちる。

石像の周りには、その光を反射するように
美しい水がはられ、
どこからともなく、舞い込んだ花びらが浮かんでいる。

そのときだった。

石像の放つ光が、大聖堂の入り口を照らすかのように、
光り輝いた。

「誰かいるのだろうか。」

ゆっくりと大聖堂への階段を上り、
入り口まで辿り着くと、
頑丈そうな扉が閉まっていた。

しかし、石像の光は、その奥まで照らし続けている。

「この奥には、一体・・・」

重そうな扉に手をかけ、ゆっくりと押してみた。

2011年4月11日月曜日

馬車のある景色

ここは、まるで本当に生きているかのような世界。
見るもの、動くもの全てが、現実味を帯びている。
もう、あなたはこの世界に降り立ったのだろうか。

当てもなく、辿り着いた先。
もう時間は午前0時を回っていた。
辺りは、薄暗くなって、微かな光が揺れて見える。

ゆっくり見渡してみると、どうやら小高い丘の上にいるようだ。

周囲は、海らしい。
静かな海だ。今日は風もなく、波もない。
普通ならさざ波の音が聞こえてもいいはずなのに、
ここは、シーンと静まり返っている。

目の前には、馬が2頭おとなしく、馬車を止めて待っている。
そう、待っているのだ。
誰が乗るのか、辺りには人っ子すらいない。
しかし、馬車馬は、静かに、時に2頭身を寄せ合いながら、
ここに来る客人を待っている。

馬車の向かう道は、橋がかけられ、
その遥か向こうには、宮殿らしき建物がかすかに見える。

橋のところどころには、ほんのりと蝋燭の明かりが揺れて、
この闇夜を映し出している。

あまり寒くもないが、木々にはまだ雪景色が残り、
時折、粉雪が舞う。

「この先には、一体何があるんだろう」

馬車に乗り込むと、それを察したかのように
馬たちが足音もたてずに歩き出した。

橋の上をゆっくりと進みながら、周りを見てみる。

「今日は星が綺麗に見える」

なぜだろう。ここは空気がとても澄んでいるように感じた。
決して温かなものではなく、しかし、冷たくもない。

夜空には、大きな月がじーっと馬車を見ているようだった。
月明かりと蝋燭の灯火がゆらゆらと揺れ、
馬車は、大きな像のある噴水まで辿り着く。

どうやら、もうそろそろ馬車は終点のようだ。