2011年5月4日水曜日

バラのある風景

ここは、まるで本当に生きているかのような世界。
見るもの、動くもの全てが、現実味を帯びている。
もう、あなたはこの世界に降り立ったのだろうか。

ゆっくりと辺りを見渡してみると、
とても沢山のバラが咲き誇っていた。
白、赤、ピンク、それぞれが誇張せず、
譲り合うように咲いている。

祭壇の奥手に進むと、
ここで永遠を誓った者たちの心が
光となってきらめいていた。

「あの女の人は誰なのだろう」

ふと、思い出し、カウンターへと足を進める。

すると、バラの影に何がか動くのを感じた。
目を凝らして注意してみる。

犬だ。

黒い色をした犬。
犬は、口にバケツをくわえ、バラの根元に水をかけていた。
そっと、柱の隠れて見ていると、
時々、バラを摘んでいるのがわかる。
キョロキョロしながら、バラを摘む犬。
何か監視しているのだ。

「おい!犬!何をしてるんだ!」

声を大きめに叫んでみた。
犬は、びっくりした表情でこちらを向き、
摘んでいたバラを自分の背後に隠そうと必死だ。
そのとき、

「こ、これは、ご主人様が育てたバラなんです。
僕は、ちょっとほしかっただけなんです。」

え?犬がしゃべった?

「犬、バラがほしかったのか?あの女の人は誰なんだ?」

そんな問いに答える間もなく、
犬は、くわえたバケツ一杯にバラを入れ、
ワン!と叫んだかと思えば、
タキシードを着た男に変わり、外へ走っていった。

ここでは一体何が起きているんだ

男を追うように入り口へ行こうとしたが、
もう姿が見えない。
そのとき、辺りのバラが急に輝き始め、
光が渦を描くように天井へ吸い込まれていく。
周りも何も見えない。
かすかなバラの香りだけがそこには確かにあった。

何か意識が遠のいていく。
遠くから、ピアノの音が聴こえた気がした。

「どうぞ、いらっしゃいませ」

あの犬の声だ。どこから聴こえてくるんだろう。
今度は何が起こっているのだろう。
目がくらむほどの光の渦は、
少しずつ辺りの景色を変えていっているようだった。